2016年8月30日火曜日

ジャニーズ事務所の「社会的責任」その1

SMAPの「解散」は、2016年8月14日(13日深夜)午前1時頃に「報道関係者各位」にFaxで送信された「弊社所属アーティスト「SMAP」今後のグループ活動につきまして」という文書で明らかにされた。実はジャニーズ事務所はこの文書とSMAPファンクラブ会員に対して送付されたハガキ以外一切公式にコメントしていない。

「解散」が事務所からのFaxにより明らかにされた時、NHK総合ではリオ五輪・テニス男子シングルス準決勝、錦織圭VSアンディ・マリー戦を生中継していたが、午前1時18分にSMAP解散を報じる速報テロップが入り、さらに試合終了後の1時39分からはニュース速報で約2分間、解散について報じた。(8月14日付デイリースポーツ

錦織選手のメダルがかかった試合であった事もあり、試合中の速報テロップに対してはTwitterなどで強い批判があった(五輪中継中のNHKの速報テロップは通常日本人選手のメダル獲得についてである)。また、翌日のスポーツ紙はどれも「SMAP解散」を1面で大きく取り上げ、五輪関連のニュースがかすむ結果となった。

五輪期間中の発表となった事に対し、中居は8月20日放送の自身のラジオ番組で以下のように謝罪している。


今、リオのオリンピックの期間中に発表ということになったことを、スポーツ関係者の皆さま、アスリートの方々、それを支える方々、そして日本中で応援している方々、自分がキャスターとしてやらせてもらっているにもかかわらず、水を差すような時期だったことは申し訳なく思っております。深くお詫び申し上げます。申し訳ございませんでした。

スポーツにかかわることが多い中居は、常日頃から「主役はアスリート」と公言している。今回のTBSリオ五輪キャスター就任に当たっても「オリンピックはアスリートの皆さんがメインなので、僕はあくまでアシスタント側」と述べている(TV LIFE 2016年7月27日発売号、p.13)。その中居にとってこの発表タイミングは悔やまれるものであったことは想像に難くない。

しかしこの件に関してジャニーズ事務所からの謝罪は一切ない。発表のタイミングを決めたのは当然ながら中居ではなく、またたとえそうであったとしても「ジャニーズ事務所からの発表」である限り、発表のタイミングについての責を負うのもまた事務所のはずである。

「SMAP解散」の発表は五輪報道への影響にとどまらず、社会に大きなインパクトを与えるものであった。世耕弘成経済産業相が「コンテンツのアジア展開にとって、解散は決してプラスにならない」、鶴保庸介沖縄北方担当相が「日本のクールジャパン戦略の重要な一翼を担っていただいた」と述べたほか(8月15日付デイリースポーツ)、小池百合子都知事もコメントを寄せた。8月19日付New York Timesは1面でSMAP解散を取り上げ、「ビートルズの解散とサインフェルド(米国の国民的人気コメディドラマ)の最終回、グウィネス・パルトロウとクリス・マーティンの離婚が一度にきたようなものであり、日本の文化的景観における一つの時代の終わり」と日本における社会的インパクトの大きさを伝え、8月14日付BBCもSMAPの解散を伝えている。

「SMAP解散」はこのように大きな社会的インパクトを与える「事件」であるのにもかかわらず、先述したようにジャニーズ事務所からは当初のFaxでの文書以外公式なコメントは(ファンクラブ会員への通知を除けば)一切出されていない。また後述するが、TV局、CMスポンサー、レコード会社など「解散」により多大な影響を受ける取引先に対しても、充分な説明や謝罪は行われていない。

通常、これほど社会的インパクトの大きい「事件」を起こした企業は、まず経営者が表に出て謝罪を行い今後の方針を説明し、取引先企業など「事件」により影響を受ける利害関係者に対し謝罪・説明および善後策の提案を行うために組織の指揮を執る。しかしジャニーズ事務所の場合、その「経営者」は一切表に出てこないどころか、組織をきちんとマネジメントしているようにも見えない。

ジャニーズ事務所の実質的な経営はメリー喜多川副社長(ジャニー喜多川社長の姉)が行っているとされる。また、所属タレントの多くはメリー副社長の娘で次期社長の藤島ジュリー景子副社長がマネジメントしており、SMAPも飯島マネージャー退社後は(実質はどうあれ公式には)ジュリー氏のマネジメント担当となったとされている。

つまりこの二人がSMAPの「事件」に関しての責任者なのだが、表に出ての謝罪・説明はもちろん、組織を指揮して対応に当たるという責を果たしているとも思えない。なぜならば、「解散」が発表されるより早く、8月13日には二人そろってハワイへ休暇に出かけているからである。「SMAP解散」が決定されたのは11日のジャニーズ事務所の役員会議(週刊文春のみ「12日深夜」と報道)であるとされるが、そうであれば休暇に出かけるまでに「解散」による社会的な影響に対する対応策が充分に練られたとは考えがたい。

この二人の責任者が休暇に出かける前に行われたのは、取引先企業への説明ではなくマスコミ対策である。8月12日にはマスコミを集めて事務所から「SMAP解散」をどのように報道するかについてのレクチャーが行われたとされるが、ここで事務所から提供された情報に基づくマスコミ(主にスポーツ紙)の記事は、「解散」の原因をメンバーの不仲に求め、そしてメンバーの人格を貶めるものばかりであった。

そもそもジャニーズ事務所の公式発表からして、「事務所は最善を尽くしたがメンバーのせいでこうなった」としか読めない文章である。普通の企業であれば、社会的影響が大きい事件を起こしてそれを「社員がやったことですから」で済ませる経営者がいたら大きな非難を浴びるであろう。

また、メンバーと事務所が何月何日の何時にどこで会合したというような細かい情報までが報道されているが、こうした情報は事務所からのリークによってしか得られないものである。メンバーと事務所はマネジメント契約を結んだ関係であり、いわば契約に関する内部情報をマスコミに積極的にリークするジャニーズ事務所のコンプライアンス意識には疑問を持たざるを得ない。さらに、いまだ自社に所属しているタレントの商品価値を下げるような情報を積極的に提供することは、そのタレントとのマネジメント契約に違反する可能性があるだけでなく、自社の得られる経済価値も下げることにつながるため、経営者としてはやってはいけないことである(この点についてはいずれ改めて詳述する)

不気味なのは、日頃「世間を騒がせた」事に対し容赦なく「謝罪と説明」を(それが必要ない人間に対してまで)求め、責任者が会見を開いて謝罪するまでは許さないと騒ぎ立て、謝罪会見が開かれれば今度は頭の下げ方まで細かく分析して謝罪が本気かどうかと論じるマスコミが(念のため、そのようなマスコミのあり方を肯定しているわけではない)、ジャニーズ事務所に対しては一切沈黙していることである。社長のジャニー氏や副社長のメリー氏、ジュリー氏に経営者としての責任を問う声はマスコミからは一切上がらず、彼らにインタビューを求めた形跡すらない。解散が発表された時もその後も、マスコミがジャニーズ事務所にコメントを求めて押しかけるという光景は見られなかった(Twitterでは「事務所の周り誰もいない」という目撃談が呟かれている)。解散報道後もジャニー氏は自社タレントのコンサートなどに姿を見せており、メリー氏とジュリー氏もハワイにいることは把握されている。彼らに対してはマスコミが得意な「直撃」が行われていないのはなぜなのか。

マスコミはSMAPメンバーの「不仲」について微に入り細に入り報道することには熱心だが、ジャニーズ事務所が社会的責任を果たすことを怠っている事、またその経営陣が経営者としての責任を果たすことを怠っている点について追求する気はないようである。しかし前述したように、SMAPの解散は単なる芸能ゴシップでなく社会的インパクトのある「事件」であり、ジャニーズ事務所とその経営者が責任を問われてしかるべき事態なのである。

その2に続く

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